最終話【まごころを、君に】
そして━━━━━━━━━━━━━━━
詩織の授業が始まる。
ま
ご
こ
ろ
を、
君
に 最終話
「先生ぇ、ちょっとわかんないんですけども。」
べジータが遠くにいるのを見計らって詩織を自然にこちらへと呼ぶ。
「ちょっと、ここが・・・」と言いつつ、メモ紙を渡す。
小声で「後で呼んで下さい」と付け加えて。不思議がりながら詩織はそれをポケットにしまった。
そこにはこう書いておいた。
先生に伝えたい大事な話があります。今日の授業後に屋上に来てください。
シンプルに且つ、どんな人間でも「ひょっとして・・・・」と思える内容。
どうせキモチを伝えるなら、心の準備をしてもらった方がいいだろう。
詩織の授業が終わり、次の授業の用意をしながら呼んでもらえたかどうかが気になって仕方がなかった。
授業が終わり、屋上へと向かう。まだ詩織はいなかった。
待つこと30分ほど。屋上のドアが開く。
詩織ではなかった。知らない人だった。
こちらに気がつくと踵をかえしたように屋上から去っていった。
今のはなんだったんだろう・・・・・・
そして待つこと2時間。とうとう詩織はやってこなかった。
俺のモチベーションは確実に落ちていた。やる気まんまんの昨日と違い今日はどうすればいいのか検討もつかず、
ダラダラと学校へと向かっていた。
靴箱を開けると中にメモ紙が入っていた。
「昨日は行けなくてごめんなさい。ちょっと会議が長引いて行けませんでした。
申し訳ないですが、今日でよろしければ、待っていてもらえますか?」
ずいぶん丁寧な、他人行儀な文章だった。俺はものすごく嫌な予感にかられたがココまできたらやるしかない
と、自分を奮い立たせた。
授業後までが、かなり早く感じられた。と言うより、何も考えられず、知らない間に授業は終わっていた。
屋上へ向かい、詩織を待つ。30分もしないうちに詩織がやってきた。
緊張がピークに達する。自分の鼓動が聞こえる。
「先生・・・・・・あの・・・その・・・・・・俺・・・先生が・・・・・・・・・」
ふと、唇に何かが触れた。
詩織の指だった。子供にシーっと諭すような仕草でおれの口を塞いだ。
「それ以上は言わないで。それを言ってしまったら私たちの関係は壊れてしまうかもしれない。
あなたが言いたいことは、もうわかる。でも私はそれに対して答えを出すことができません。YESもNOも言うことはできません」
詩織は優しい顔でそう言った。
俺は何も言うことが出来ずに、ただただ黙って去る詩織を見つめるしかなかった。
しかし意外にも、落ち込んでいなかった。
やはり、素直に本当の気持ちを相手に伝えることですっきり出来たのかもしれない。
言葉・ことば・コトバ。キモチを相手に伝えるために、人間だけが持つ手段。
人を幸せにも不幸にも愛することも殺すことさえできる、人間にとって無くてはならないモノ。
俺はコトバを使い、詩織にキモチを伝えたかった。それだけが心に残った唯一の後悔であった。
半月後━━━━━
「あー、もう夏休みだな。チムなんか予定あんの?女とか女とか女関係で。」
「ねーよwwwwwwまったくねえwwwwwwwwwwww」
本日は終業式。
靴箱に何か入っていた。可愛らしい封筒だった。
(うはwwwwラブレターかなwww)友達にバレないよう鞄にしまい、教室へと向かう。
詩織のことは忘れよう、あきらめようと自分に言い聞かせていた。
これでかわいい彼女でも出来れば、全く持って幸せな夏休みに突入できることだろう。
教室に入る前に人のこない、五階の廊下へと向かいその封筒をニヤニヤしながら開ける。
しかし「・・・・・・・・・・・・・・ライブのチケット?ってかこれ俺が大好きなインディーズの歌手のライブだ!
あれ?これ以外は入ってねえ・・・・」
結局何がなんだかわからず、教室へと戻り、考えをめぐらせる。
なんだこれ?誰かからのプレゼント?俺に?
それともドッキリか?どこだ!どこから見てやがる!
しかし夏休みに突入しても、ダレからもネタばらしがなかった。
そして夏休みも中盤に差し掛かった、ライブの日・・・
「まぁ、ドッキリだとしてもこのライブには行きたいしなぁ・・・・」
そして結局俺はそのライブ会場へと向かった。
ライブが始まり、回りも自分も盛り上がってきた。
しかし、知ってるヤツがいない。ネタバラシもない。なんだったんだろう・・・・どりあえず楽しむぜwwww
その時だった。
俺の手を握る、誰かの手。
後ろを振り返ると、女性がいた。
詩織だった。
「とりあえず、夏休みの間だけだよw」
END