最終話【嘘と、沈黙】



TMはついに詩織にキモチを伝えることに決めた。
数日後の夕方、その月の掃除は詩織が担当する場所だった。
覚悟を決めて、言うことにした。それは、自分のキモチをすっきりさせるため。
告白して、どうなるか。ダメだろうとは思っている。でも言わないことには気がすまない。
相手のことなんか考えていない、自己中なことだとわかっている。
でも、俺にはキモチを伝えることしか出来ない。

最終話                  THE END OF STORY 
                 
               He was aware that he was still a child .
  沈黙


掃除が終わり、俺は詩織に話しかけた。
「先生!ちょっと授業でわからないことがあるんですが・・・」
「え?うん。じゃ、とりあえず職員室行こうか。」
「はい。」
これは同じ場所で掃除しているヤツらを帰すための口実である。
職員室へ向かう途中。
「先生!」
「へ!?な、なに?」
「詩織先生!俺・・・俺・・先生のことが好きなんです!
教師と生徒って関係が、どれだけ高い壁でもこのキモチを伝えたかったんです!」
「え?え?そんなこと急に言われても・・・・・え?」
「別に答えがすぐ欲しいとか、そういうんじゃなくて。伝えたかっただけで、
自己中かもしれないけど、どうしても。」

自分で何を言ってるのかわからなかった。でもココロからツカエが取れたような気がした。
最後、唯一賭けにでた。俺は自分のケー番とアドレスを渡した。
「返事とか、もしもらえるならここにください。」

これはあわよくば、詩織のアドレスをゲッツしてしまおうと言う作戦であった。
答えがNOでも電話やメールが出来れば、そこからまた距離を縮めることが出来るかもしれないから。
俺は逃げるようにその場を去った。詩織は何がなんだか良くわかっていないようだった。
TMは自分のキモチをついに伝えた。

━━━━━━━二日後━━━━━━━━
見知らぬアドレスからメールが来た。
(ひょっとして・・・・)
その通りだった。詩織だ。
簡潔に言うと
「考えた結果、やはりムリ」という話だった。
私はあなたが好きだケド、それはやっぱりLIKEであって生徒としか見れない。と。
でも、メールはいつでもしてきて欲しい。相談、雑談なんでもいい。
このまま、あなたとの関係が変わってしまうことはわたしにとってツラいことだから。

案の定、答えはNOだったけど、作戦的には成功だった。
俺は「ありがとう」的な返事を返した。

その後も何度かメールのやりとりをした。
毎日のようにメールして、作戦通り距離は縮まった気がした。

そして半年ほど経ったころだった。詩織からのメールがあまり返ってこなくなった。
特に変な誘いのメールや、嫌われるようなメールを送った覚えもなかった。
学校で直接聞こうと思ったが避けられている気がした。何がなんだかわからなかった。
自分は変なことをしたのだろうか・・・・・・・・

ある夜、詩織からメールがきた。
「メールだけとはいえ、一人の生徒と親密になることはマズいと思う。だから今後こういうのはやめよう」
そう書かれていた。俺の中で何かがプッツリと途切れたような感覚に陥った。
俺が何かしたのか、変なこと言ったのか聞いてもメールは帰ってこなかった。


一週間ほどして朝のHRでべジータが言った。
「えー、詩織先生ですが・・・急に隣の県の学校で欠員が出て、そちらに行かなくてはならなくなりました。」
続けて詩織が話す。
「みなさん。大変急な話ですが、ベジータ先生の言ったとおりです。本当に短い間でしたが、
初めて担当したのが君達でよかった、本気で思っています。またいつか会える日を楽しみにしています。」

授業が終わり、詩織を探した。絶対に屋上にいると思って走って向かった。
屋上には、一人悲しげな後姿で立っている人影があった。
「詩織先生・・・・」
「TM君・・・」
俺はメールの件には触れない方がいいと思い、ほかの事を話した。
「急な話ですね。」
「本当にねwでもね、さっき言ったことは本心よ。初めての受け持ちが君達でよかった。一生忘れないとおもう。
もちろん、TM君のこともねw」
「僕も・・・・絶対に忘れません。忘れられません。今は・・・」
その後も、とりとめもなく話した。
「生徒と教師の親密な関係もおもしろかったかもね・・・」
「え?」
「なんでもないよw早く帰りなさい。」

一週間後。詩織がココでの生活を終える日。さすがに通うにはツラいらしく、引っ越すらしい。
駅まで見送りに行った。もちろん他の生徒もいたが。
俺は特別声をかけるわけでもなく、ただそこにいただけだった。

チャララ〜♪

メールが来た。詩織からだった。
「親密な関係がマズいとかは、嘘です。私はあなたに何もしてあげられないまま、いなくなってしまう。
それを考えるとあなたに私のことをあきらめてもらうしかなかった。だから、仕方なくあんなことを言いました。
今これを伝えるのはどうかと思いましたが、言わないと私もあなたも納得できないままの、お別れになってしまうと思って
メールを送ります。また、どこかで、偶然に出逢えたときには、運命を感じてしまうかもw
では、お元気で。  追伸:あなたはまだまだお子様ねw」

俺は、なんと返事をすればいいのかわからなった。詩織は俺のことを嫌っていたわけではなかったと知り、
ホッとする反面、モヤモヤがココロに残ったままのお別れになってしまった寂しさが
俺の心を濁していた。

俺はそのメールに対して「わかった。ありがとう」的なメールを送ったが、
返ってきたのはdaemonさんからの、アドレスが間違っていますメールだった。

たぶん、偶然出会えたたならばの文章にはこの意味合いが含まれていたのだろう。
だから詩織はサヨナラを告げたのだ。
サヨナラ、詩織先生。



〜5年後〜

俺は高校を出てすぐに働き始めた。営業の仕事だ。
今日は出張で隣の県に来ていた。
「そういえば詩織はこの県にいるんだったな・・・・懐かしいな・・・」
今では彼女もいて、そういう思いは薄くなっていた。
「でも逢えたなら運命かな・・・なんつってなwwwwwww」

だが・・・飲み物を買おうと入ったコンビニに見覚えのある顔があった。
紛れもなく詩織だった。
俺は冷や汗と鳥肌が止まらなかった。
俺は意を決して声をかけてみようと思った。

「し・・・・・
 「ママー!!コレ買って!!」
「あら、アイス。よくあけれたねー。ユカ。暑いし、もう何個か買って帰ろっかw」
 「わーい!!アイスアイス」

俺は苦笑いを浮かべて、隠れるように店を出た。
「娘か・・・ユカって言うんだw俺も向こうのユカにお土産でも買って帰ろうかね・・・・・」


                                                        劇 終