第九話【甘き死よ、きたれ】



あの事件から一ヶ月。距離は近づく。しかしそれ以上縮まることのない距離。
どこからが本音でどこからが思い込みかわからない曖昧な距離。
少し手を伸ばすと壊れてしまいそうな脆弱な距離。
自分の想いを伝えるには早く、伝えないことには耐え難い距離。
自分はどうしたいんだろう。何をしたいんだろう。

最終話 (前編)       THE END OF STORY part 1

               Komm,susser Tod .
    きたれ


俺は悩んでいた。縮んだ距離に進展がないことに。自分の勇気のなさに。
仕方ないじゃないか。相手は教師。どうせ、ムリに決まってる。
もし、両想いだったとしても世間的につらいだろう。

ダメだったら?その後どうする?詩織の授業を受けにくいなんてモンじゃない。
顔を合わすことさえ躊躇われる。自分も・・・相手も・・・・
でも、卒業するころには・・・・
相手の都合は?そのころには彼氏がいるかもしれない。
いや、もうすでにいるのかもしれない。
考えれば考えるほど、わからない。
別のことを考えていたはずが、気づいたらこのことばかり。
何か気晴らしがしたい・・・。

単車に跨り、走り出した。気づいたら隣の町まで来ていた。
大通りを左に曲がると、そこには寂れた映画館があった。

「映画でも見るか・・・・」

上映中の看板には聴いたこともない映画のポスターが張ってあった。
古い映画なのだろう。そのポスターは黄ばんでところどころ破れているようにも見えた。

そのポスターには書かれていた。
『Komm,susser Tod.』

「意味がわからん。フランス語か?それともドイツ語か?たぶん英語ではないよな?」

映画が始まって中ごろ、わかってきた。よくある恋愛映画だ。恋人が不治の病にかかっているらしい。

その恋人が自分に興味を示してもらうために、信じられないことばかりを言うようになった。
「昨日、ここで亡くなった人の幽霊を見たの。その人は・・・・・」
「昨日ね、外を散歩していたら・・・・・・」

数日後、彼女は言った。
「ねえ、何で疑わないの?なんで私を叱ってくれないの?」

「君の事を愛しているから。僕が君の言うことを信用できなかったら、僕はなんのために、ここにいるのかわからない。」
男は続けた。
「君に嘘をつくな。と、言ったら僕は君を信用できなくなる。君のことを信用できなければ、僕が信用されていない
のも同じだから。」
「僕が愛されていないということと同じことだから。」
女は泣いた。ごめんなさい、ごめんなさい。と

俺は涙を流していた。つられ泣きなんかじゃない。この男のセリフに心をうたれた。

結局、彼女は息を引き取った。しかし安らかに、幸せそうな顔で、誰かに抱かれ安心しきった顔で。

嗚咽が落ち着いて席を立った俺は、出口にいた館長らしき人に声をかけた。
「この映画のタイトルってどういう意味なんですか?」

「甘き死よ、来たれ・・・だったと思うが・・・」

俺はお礼を言って、映画館を出た。
家に帰った後も、あのセリフが頭から離れなかった。
「僕が君の事を信用できなければ、僕が信用されていないことと同じだから。」

何故かはわからないが、この言葉にココロを押され、俺は思い立った。
言わなきゃ、なにも始まらない。始まらないのは、なにもないことだ。
こんなにキモチが動いているのに、何もなかったなんて後悔をするだけだ。
近いうちに伝えよう。詩織に本当のキモチを。

                                 TO BE CONTENUED


詩織にホントのキモチを伝える決心をしたTM。
当たって砕けても、そこには、何かをしたという答えが見つかるはず。
最期のトキは近づく。果たしてTMを待ち受ける結果は?

  次回!最終話PART2

嘘と
  沈黙 






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